東京高等裁判所 昭和30年(く)44号 決定 1955年6月16日
本籍 新潟県○○○市○○○番地
住居 不定
無職 Y 昭和十二年四月三日生
抗告人 法定代理人父
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、本件少年は昭和三十年五月十三日横浜家庭裁判所に於て審判せられた上中等少年院に送致する旨の決定を受けたものであるが、右決定は諸種の調査の結果為されたものであろうが、その主たる理由を為すものは、少年が前回の保護処分の際誓約した二、三の事項に違反したこと、及び本件保護処分の際に於ける警察官の意見が重視せられたことの二点に存すると思う。然し少年は故意に前誓約を破棄したものではなく、兄と就職や食事のことで口論し発作的に昂奮し家出したものであつて、その責任は寧ろ家族にあるものであり、又原決定の際に於ける警察官の意見は少年本人に関すると云うより寧ろ他の交友少年に関するものに過ぎなかつた。固より少年は未だ原審裁判所が認めた如く悪質不良化し到底家庭に於て矯正できない程のものではないのであるから、これ等の点を斟酌し、更に調査の上原決定を取消し、今一度少年を家庭に還えして貰いたいというのである。
そこで記録を調査するに、少年は本件抗告申立人と○中○子との間に二女として出生したものであるが、昭和三十年三月七日横浜家庭裁判所に於て虞犯少年として横浜保護観察所の保護観察に付せられたものであるところ、同人はこれより先○岡○子、○恵○子と共謀の上、同年一月二十八日午後七時三十分頃横浜市鶴見区鶴見町千四百二十七番地乾物商喜屋こと有賀敏春方に於て、同人に対し同店と取引関係にある同町八百二十五番地レコード屋ニユーオデオンこと柳瀬睦治の依頼を受けた如く装い、その旨有賀を誤信せしめた上、即時同所に於て同人所有のパインアツプル罐詰一罐イチゴジャム罐一罐角砂糖一箱を交付させてこれを騙取した他、その後保護者及び担当保護司の正当な監督に服さず、同年四月四日無断家出し、爾来素行不良の徒輩と交友し、怠惰徒輩の生活を続け、自己及び他人の徳性を害しているもので、この儘放置すれば将来罪を犯す虞れありとして、原審に於て少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたものであることが認められる。而して一件記録に現われた少年の生育歴、性行、家庭環境等を綜合して考察すれば、少年の家庭は両親は健在でこそあるが、父は失職中で、少年も定職がないので、生計の支柱となつている二人の兄より兎角厄介視せられて、次兄と口論の末たやすく前回の保護処分の際に於ける所論の誓約を破棄して家出したのみならず、保護者たる抗告人も漫然その後これを放置していた事情を考慮すると、少年の家庭は少年本人を監督育生する能力に於て欠くるところありと云わなければならない。従つて原審が少年の家庭及び交友環境を調整するため収容保護の必要ありとの見解の下に、原決定をしたのはまことに相当であつて、原決定には何等決定に影響を及ぼす法令の違反、重大なる事実の誤認、又は処分の著しい不当等は認められないから、論旨は理由がない。
よつて少年法第三十三条第一項に則り本件抗告を棄却することとし、主文の通り決定する。
(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)